この事例の依頼主
男性
〈借金を抱えるに至った経緯〉10年前に結婚して以来、3人の子供に恵まれました。そして、ちょうど3人目の子供が生まれるタイミングで、私と妻名義でマイホームを購入しました。こういう事例は他にはないのかもしれませんが、我が家は共働きで、むしろ、妻の方が給与が高かったので、2人合わせると世帯年収は1000万円を超えていました。今、思えば、自分の家は世帯年収1000万円の家だから、生活レベルが多少高くても大丈夫と潜在的に思い込んでいて、客観的に、家計の分析ができていなかったのだと思います。そこに子供たちにも高い教育を受けさせなければならないという思いがありました。自分は、大した学力がなかったので、国公立の大学には進学できず、かといって、私立大学に行けるほどの余裕もなかったので、夜間の専門学校に2年通ったという経歴で、そのため、妻よりも給与が安いという状況に、これまた知らず知らずにコンプレックスを感じていたのかもしれません。それに、実際、子供たちが学力をつけて、皆が国公立に通ってくれれば、後で今かけた教育費は高くなかったと思える日が来るとも信じていました。そのため、3人の子供それぞれに、私のこだわりがあって、相当な習い事や学習塾通い、高額な教材購入をしたため、教育関連支出がとても多くなってしまいました。当然、教育費なので、無駄遣いしているという意識は全くなく、むしろ、教育に支出を惜しんではいけないという思いでした。ところが、3人目の子供が生まれて家を購入後、妻が間もなく体調を崩してしまいました。一旦は、妻は会社を辞めざるを得ないとも考えていたのですが、妻の会社の計らいで時短勤務を認めてもらえることになりました。ただし、当然、給料は減りますし、世帯年収も減りました。他方で、むしろ、家計の支払いはどんどん増えていきます。「このままではヤバいなあ」「なんとかしないとなあ」という真綿で首を絞められるような息苦しさを日々感じており、一旦、先のことを考えだすと、仕事も手につかないという苦しい日々を過ごしておりました。そして、時々、インターネットで、借金のことを検索して、漠然と「個人再生」という手続きがあることは分かっておりましたが、その際に、費用が50万とか60万とかの金額が必要と書いてあったので、とても、借金の支払いが大変な上にそんな金は払えないと思い、真剣には考えておりませんでした。(そもそも、借金を圧縮する手続きなので、借金の支払額にプラスして考えるのはおかしな話なのですが、その時は思考が停止していたんだと思います。)そこで、なとか月々の支払い負担を軽減する方法を考えていたのですが、「おまとめローン」で複数の借金(キャッシングやカードローン)をひとつにまとめるという方法を見つけました。私自身の給与を増やすというのも容易な話ではないので、この「おまとめローン」で乗り切ろうと考えました。そこで、ろうきんに、「おまとめローン」の相談・申し込みに行きました。受付の方の対応も感じが良かったので安心でした。ところが、理由は教えてもらえませんでしたが、審査が通らなかったのです。ショックでした。もはや、おまとめローンさえ組めない自分は終わっていると焦り、もはや費用がどうのこうと言っていられないと思い、スマホで調べて、大きくて信頼できそうな立派なビルに入っている弁護士事務所に相談に行きました。
その弁護士事務所さんで、「家は絶対に手放せません。」「妻には借金はありません。」「私だけを破産か個人再生でできませんでしょうか。」と相談したところ、弁護士さんから、「あなたが自己破産したところで、奥さんのローンが一括請求されてしまいます。」「あなたがた夫妻が組んでいるのはペアローンなんです。」「分かりますか?」「ご夫婦が住宅を2分の1ずつ持ち分を有して、それぞれの持分に応じてあなたと奥さんがそれぞれ個別に住宅ローンを組んでいるんです。」「その限りでは、あなたはあなた、奥さんは奥さんですが、それぞれの住宅ローンを担保するためにお互いの持ち分が相手方の抵当に入っているので、どっちかが支払いを停止したり、破産したりすると、結局、住宅全体が競売の対象になってしまうのです。」「ではあなただけが個人再生を住宅資金特別条項付きで申し立てればよいのかというと、それもできません。」「住宅資金特別条項は、あなた自身の住宅資金貸付債権『だけ』が住宅に抵当としてついている場合しか認められないのです。」「夫婦一体だと思うかもしれないけど、住宅資金特別条項に関して言えば、奥さんの抵当は、『他人の抵当』なのです。」「?????」「難しいことはよく分からないのですが、結論として、どうすればいいですか?」「家を売るか、夫婦そろって住宅資金特別条項付きの個人再生の申し立てをすることです。」「家を売るなんて考えられません!」「しかも、妻は、借金と言っても住宅ローンがあるだけなのに個人再生を申し立てないといけないんですか?」「そういうこと言う人いるんですけど、ペアローンの場合には、そういう決まりになっているので、従いたくないというのであればできません。」にべもなく言われてしまった私は、一旦、検討すると持ち帰り、その夜、妻に話をしました。妻の反応はと言いますと、「私もその個人再生というのをする必要があるなら仕方ないけど、個人再生をしたら私はどうなるの?」「何か、困ることが出てこない?」「私もブラックリストに載ったりするわけ?」「今は、時短扱いにしてもらっているけど将来、正社員に復活する場合には支障にならない?」等々の質問攻め。私は、妻が個人再生をすることをどう受け止めるかだけを気にしており、そう言われれば、個人再生をしたらどうなるかについては、ノーマークというかあまり聞いてこなかったので、その点について、妻が腹を立ててしまったのです。「『個人再生して下さい』だけで、『ハイ、分かりました』と言う人間がいると思うの?」「自分が逆の立場だったらどうよ?」「自分自身がその個人再生とやらをよく理解していないのに、よく人に勧められるね。」「大体、費用はどうするの?」「そういうことだから、借金が膨れ上がるのよ!」「何事に対してもそうで、深く考えずにやってきた結果がこれでしょ!」等々の荒れようで、段々、夫婦間の根本的な問題にまで話が及びそうだったので、「ごめん。」「俺も今回のことでちょっと動揺していて要領がよく分からなかったんだ。」「できれば一緒に、弁護士の説明を聞いてくれないかな。」とようやく、一緒に面談をしてもらうところまで了解を取り付けました。それで、最初に相談した弁護士事務所に連絡をして再面談を申し入れましたが、その弁護士のスケジュールと我々のスケジュールが合わないまま時間が経ってしまいました。夜の5時以降も土日もダメな事務所だったのです。
奥さんの気が変わると困ると思ったご主人は、慌てて別の弁護士事務所を探し始めましたそうです。もう、切羽詰まった状況でしたので、それこそ、市内の事務所を検索して、片っ端から、「今週中で、夜か土日で、しかも、妻と子供たちを連れて行ってもいいですか?」という条件で受けてもらえるところを探しまわっていたそうです。お気の毒です。ただ、これを聞いて分かりましたが、そういうニーズに対して弁護士はあまり応えていないですし、実際には対応していてもそのことをきちんと情報として整理して開示しているところってあまりないですよね。これは当事務所も例外ではありませんでした。そのため、これを契機にいろいろな体制を可能な限り整えたり、そのことを積極的に開示して弁護士探しに役立つようにしようと努めております。(まだまだ十分ではないですが)そして、ペアローンの件ですが、これは結構、込み入った話で、弁護士でもきちんと理解していない人もいるので、補足します。ペアローンとは、現代の共働き世代ならではの問題もしれませんが、要は、1つの不動産を最初から2分の1ずつの持ち分にして、夫はその2分の1を購入するために自分の名義でローンを組んで、妻は残りの2分の1を購入するために妻名義でローンを組みます。なんでこんなややこしいことをするのかというと、このペアローンのメリットは節税効果を享受することができることです。住宅ローン控除の最大控除額は「1人あたり」上限400万円となっていますが、夫婦が共働きの場合、それぞれが、400万円まで住宅ローン控除の恩恵を受けることが可能となります。さらに、「すまい給付金」といって、消費税率8%時は収入額の目安が510万円以下の方を対象に最大30万円、10%時は収入額の目安が775万円以下の方を対象に最大50万円を給付する制度があるのですが、これもペアローンの場合には、夫婦それぞれが給付を受けることができるのです。それで、このペアローン、ここまではメリットのお話しでしたが、こと個人再生の申し立てをする局面ではやっかいな問題を引き起こします。ペアローンの場合、それぞれが個別に2分の1ずつ持っていると言っても、所詮は1個の家なので、例えば、夫婦のうち、どちらかが支払いを怠った場合に、その2分の1だけを担保にとっておいても、その2分の1を独立して売却するなどということは現実不可能です。そこで、奥さんのローンの支払の担保として、旦那の持ち分2分の1にも抵当をつけますし、旦那のローンの支払の担保としても、奥さんの持ち分2分の1にも抵当をつけるのです。個人再生においては住宅ローン特別条項の適用を受けて、住宅ローンだけ別に支払いをすることができますが、その条件として、「その住宅(持分)に他人の債務の担保がついていないこと」があります。妻は他人じゃない!と言っても、債務整理においては、本人以外はたとえ家族でも他人とされるのです。そうしますと、結局、今回のようなケースでは、ご主人が個人再生を申し立てて住宅ローン特別条項を受けようとしても、ご主人の持ち分には、他人である奥さんのローンの担保がついているので、適用を受けられない、という事になってしまうのです。適用を受けられないとされている理由は、せっかく、ご主人に住宅ローン特別条項を認めても、後日、奥さんがローンを不払いにすれば、結局、その家は競売にかかるから、認めることが無駄だと考えられているのです。⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒(その2)に続く。