この事例の依頼主
40代 女性
私は、A国籍の夫と日本で知り合い、婚姻し、子供を授かりました。夫は、B教という宗教の信者でしたが、婚姻前には、私や生まれてくる子供には宗教を強制するつもりはないと言ってくれていました。しかし、婚姻後、夫は態度を変え、子供をB教の信者にさせろとしつこく言うようになりました。また、夫は、日本で仕事をしていたにもかかわらず、生活費を一切負担せず、住んでいたマンションの賃料や食費、保険料等、全ては私の収入で賄わなければなりませんでした。そんなある日、夫は、私と口論になったのをきっかけに、家を出て行ってしまいました。私は、居場所を教えるよう、また、生活費を負担するよう、何度も夫にメールをしましたが、夫は応じませんでした。私は、このような夫と、これ以上やっていくことはできないと思い至り、離婚を決意しました。しかし、居場所もわからない夫とどうやって離婚したらいいかわかりませんでしたので、弁護士に相談しました。
夫の連絡先として判明していたのはメールアドレスのみでしたので、弁護士は、まずそのアドレスにメールを送り、私の代理人に就任したことを伝えるとともに、夫との交渉を試みようとしてくれました。しかし、夫は、弁護士にはまともな返信をせず、私に脅迫的なメールを送ってくるばかりで、居場所を教えようとはしませんでした。しかし、その後、子供の保育園付近に夫が現れたという情報が入りましたので、私は連れ去りなどされては大変だと思い、すぐに夫に対する離婚訴訟を提起してもらうことにしました。訴訟では、夫の居場所がわからないということで、「公示送達」という手続が取られた結果、提訴から3か月で、離婚を認め、子供の親権者を私とする内容の判決が出ました。思った以上にスピーディーに離婚することができましたので、弁護士に相談して本当に良かったと思います。
離婚したい相手方が所在不明で、コミュニケーションも取れない場合、相手方との合意が必要となる協議離婚や調停での離婚はできませんが、訴訟であれば、「公示送達」という手段を使って離婚することができます。訴訟を提起すると、裁判所は、相手方に訴状などを送達しますが、送達すべき場所(相手方が居住しているところであることがほとんどです)が不明ですと、どこにも書類を送れず、それ以上手続を進められないことになってしまいます。しかし、だからといって訴訟ができないというのでは、トラブルを解決することができませんから、このような場合、裁判所の敷地内に掲示をする(公示する)ことで、相手方に届いたことにします。こうして訴訟手続を進め、判決が出たら、判決についても所定の期間「公示」をすることによって、判決が相手方に届いたことにでき、上訴期間が経過すれば、その判決は通常どおり確定します。本件では、相談者の夫が家出をしてしまい、連絡先としてはメールアドレスしかわからず、連絡しても頑として居場所を教えず、離婚条件の交渉にも応じなかったため、離婚訴訟を提起して、裁判所に公示送達を上申しました。公示送達を利用する場合、考えられる連絡先をあたり、調査しても、相手方の居場所がわからないということを裁判所に示す必要があります。本件の場合、メールアドレスでは居場所はわかりませんし、A国人である夫は、日本には親類が全くいませんでしたので、他に考えられる連絡先としては、相談者の夫の勤務先しかありませんでした。しかし、勤務先に連絡して夫の在籍確認を試みても、何ら応答をもらえず、結局夫の居場所はわかりませんでした。そのため、このことを「所在調査報告書」にまとめて裁判所に提出したところ、公示送達が認められました。結果的に、提訴から3か月で、原告である相談者の尋問が行われ、その当日すぐに、相談者と夫の離婚を認め、子供の親権者を相談者とする内容の判決が出され、確定しました。なお、本件訴訟では、相手方に対する慰謝料も請求していたのですが、判決では請求額の一部が認められました。相手方の居場所が不明である以上、慰謝料の回収可能性はほぼないであろうとは思われますが、ひょっとして、ということもありますので、事案の内容にもよりますが、金銭的請求をすることは検討に値します。このように、相手方が行方不明でも、離婚をする方法はありますので、お困りの方は是非弁護士にご相談下さい。