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「これ以上仕事ためたくない」インフルエンザなのに出社、法的な問題は?
2019年12月07日 09時43分

国立感染症研究所は11月15日、インフルエンザが全国的な流行期に入ったと発表した。11月27日発表の定点当たり報告数は「3.11」で前年同期比の約6倍。今年は流行スピードが早いようだ。

社会人がインフルエンザにかかった場合については、生徒・学生らと異なり、出社停止期間などが法律で決められているわけではない。なかには、「仕事がたまっているのに休んでいられない」という人もいるかもしれない。

法律で特に決められていないからといって、インフルエンザと診断されたにもかかわらず、出社してもいいのだろうか。近藤暁弁護士に聞いた。

国立感染症研究所は11月15日、インフルエンザが全国的な流行期に入ったと発表した。11月27日発表の定点当たり報告数は「3.11」で前年同期比の約6倍。今年は流行スピードが早いようだ。

社会人がインフルエンザにかかった場合については、生徒・学生らと異なり、出社停止期間などが法律で決められているわけではない。なかには、「仕事がたまっているのに休んでいられない」という人もいるかもしれない。

法律で特に決められていないからといって、インフルエンザと診断されたにもかかわらず、出社してもいいのだろうか。近藤暁弁護士に聞いた。

●就業規則に規定されている場合が多い

ーーインフルエンザにかかった場合について、会社は何かルールを設けているものですか

「一般的に、就業規則には、病者の就業禁止や報告義務等が規定されている場合が多いでしょう。

例えば、次のような規定です。

『会社は、病毒伝播のおそれのある伝染性の疾病(新型インフルエンザおよびその疑いを含む)に感染した従業員については、就業を禁止する』

『従業員は、伝染病の疾病(新型インフルエンザおよびその疑いを含む)に感染した場合またはその疑いがある場合、直ちに所属長に報告しなければならない』

また、『就業規則に違反する行為があったとき』には、懲戒事由に当たるとして処分の対象になるとされていることが多いでしょう」

●インフルエンザにかかっているのに出社すると懲戒処分を受ける可能性もある

ーー会社による懲戒処分とはどのようなものでしょうか

「会社の懲戒処分は、(1)『使用者が労働者を懲戒することができる場合』で、(2)その懲戒処分に『客観的に合理的な理由』があり、(3)『社会通念上相当』と認められるときに有効となります(労働契約法15条)。

先ほど説明したような『就業規則(病者の就業禁止や報告義務等)に違反する行為があったとき』などの懲戒事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則で定められている場合、(1)『使用者が労働者を懲戒することができる場合』の要件を満たします」

ーーインフルエンザにかかった状態で出社したら、懲戒処分を受けますか

「インフルエンザと診断されたにもかかわらず出社することは、就業規則に定められた懲戒事由に該当することになり、(2)懲戒処分に『客観的に合理的な理由』があるといえるでしょう。

ただ、懲戒処分は、(3)『社会通念上相当』であることも求められます。そのため、懲戒処分の種類・程度が重すぎるような場合には、懲戒処分が無効となることもあります」

●感染元になってしまった場合、同僚に責任を問われることも

ーー懲戒処分以外の責任に問われることは考えられますか

「インフルエンザと診断されたにもかかわらず出社した結果、インフルエンザの感染元として、会社の同僚にうつしてしまった場合、損害賠償請求をされる可能性も考えられます。

実務上は因果関係の立証、つまり感染経路や感染元の特定にかなりの困難を伴いますが、事実関係によっては立証に成功する可能性もあるでしょう。

また、損害賠償請求が認められるためには故意または過失が必要となります。

インフルエンザは強い感染力を持つ疾患であり、近くにいる人間にうつしてしまう可能性があることは、一般的に広く知られていることです。

インフルエンザの感染、発症が明らかであるにもかかわらず無理に病気をおして出社したり、職場に感染の事実を隠して出社したりした場合には、少なくとも過失があるといえるでしょう。

具体的な損害賠償の内容としては、治療費や休業補償などが請求されることが考えられます」

ーーたとえ忙しくても、インフルエンザにかかった状態での出社は避けた方がよさそうですね

インフルエンザをおしての出社には上記のような法的リスクがある上、業務効率が著しく低下することは明らかです。やはり自宅で安静にし、治療に専念することが賢明です。

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